2019年5月22日(火)
昼の座談会
【プロが伝授!香港の物件探しのテクニックとトラブル対策】
私は、1992年に現スターツコーポレーションに入社しました。日本では、水野真紀さんのテレビCMでおなじみとなったピタットハウスで、賃貸・売買社内金賞を受賞し、社内最年少で店長を歴任しました。その後は、建設部門やエリア長を経て、スターツインドの立ち上げで現地に4年駐在し、帰国後は本社国際事業部長を歴任、現在スターツ香港と広州の総経理をしています。今日は、『香港の物件探しのテクニックとトラブル対策』というテーマで香港の住宅事情についてお話ししたいと思います。
香港住宅賃料の展望まず最初に、香港の不動産価格の大枠からお話ししたいと思います。香港政府が出している賃料指数の推移データを見ますと、香港はここ20年で5回ほど不動産価格が下落した時期がありました。一番最初の下落は1977年のアジア金融危機です。そして、2003年のSARS、2008年のリーマンショック、2012年の印紙税の増税と続き、5回目が2015年の中国株の下落です。
2012年の印紙税の増税は、当時不動産の売買価格の高騰が社会問題になっていましたので、香港政府が、投資抑制のために2軒目の住宅購入に関して、印紙税を15パーセントから2倍の30パーセントに引き上げたためです。これによって価格の上昇が少し頭打ちになる局面が見られましたが、大幅な下落にはならず、翌年からまた上昇を続けました。結果的に香港の不動産価格は20年間上昇を続けています。
次に、香港の住宅価格が世界と比較して、どのくらいの水準にあるかを見ていきたいと思います。2018年10月の資料ですが、東京都港区元麻布を基準に世界各都市のマンション価格を比較すると、分譲マンションの場合は、1位が香港、2位がロンドン、3位が上海となっています。ちなみに東京は8位です。香港の価格水準は、東京の2倍以上となっています。続いて賃貸マンションの場合は、1位がロンドン、2位がニューヨーク、3位が香港となっています。香港は3位ですが、それでも価格水準は東京の1.7倍となっています。
次に、2018年4月から10月までの価格変動率を見てみますと、分譲マンションの場合は、1位が香港、2位がソウル、3位がバンコクで、半年間の香港の変動率は6.8パーセントとなっています。賃貸マンションの場合は、1位が香港、2位が北京、3位がホーチミンとなっています。中国も賃貸住宅の整備を推進していますので、北京・上海などの都市部において住宅価格の高騰が目立っています。これらから香港の住宅価格は、世界トップレベルの高さだとおわかりいただけると思います。
香港では、住宅賃貸契約を更新するたびに家賃が値上がりします。広さ別に見ますと、過去5年間で一番上昇率が高いのは、430平方フィート、1ベッドの広さです。平均すると1年でおよそ6パーセントずつ上昇しています。次に上昇しているのが2ベッドの広さで、1年でおよそ4.5パーセント上昇しています。弊社でお手伝いしているお部屋全体の昨年1年間の上昇率は、7~8パーセントでした。ただし、昨年10月以降は、中国とアメリカの貿易摩擦の影響で4パーセントくらいに下がっています。
スターツ香港 総経理
一倉由布子さん
香港の家賃は世界一高いとお伝えしましたが、2017年11月からの翌年までの1年間をスターツの海外36拠点で比べてみても香港がダントツ世界一で、平均家賃は60万円超となっています。2位がアメリカ西海岸のサンノゼ、3位がニューヨークです。香港がニューヨークより高いのは、日本駐在員が住む物件数が少ないため、利用が集中して価格が高騰していることがあります。
香港での日本人の居住エリアは、香港島が40パーセント、カオルーン島が60パーセントです。家族向け賃貸住宅を見ますと、香港島の中で多いのはタイクーとサイワンホーです。カオルーン島では、カオルーン駅の上とホンハムのエリアが多いですが、家賃が非常に高いので、最近はショーグンオーやクントン、シャーティン、オリンピック、ラムチョン、ライチーコックなどのお問い合わせが増えてきています。お問い合わせの多い家賃価格帯は、2ベッドルームで35,000~45,000ドル、3ベッドルームで45,000~55,000ドル辺りです。
最近は、ペット可物件のお問い合わせが増えていますので、探してみるとたくさんありました。ただし、物件自体はペット可物件でもお部屋のオーナーさんが嫌がるケースもあって、飼えない物件も多いのが実情です。
香港では、昨年秋から続々と新築物件が完成しています。最新のものをご紹介しますと、サンフンカイグループがノースポイントで『ビクトリア・ハーバー・レジデンス』というサービスアパートを今年の1月末にオープンしました。ホテルも隣接していて、シービューで非常にきれいなところです。家賃は、1ベッドでは30,000ドル、2ベッドでは55,000ドル、3ベッドでは96,500ドルからとなっています。
この物件は、サービスアパートですが、タイプ別の傾向としては、単身で駐在の方はサービスアパートのご利用が多く、ご家族の方は一般のアパートが多くなっています。
入居時に気をつけることここからは、賃貸住宅を利用する際の注意点などをお話しします。まず、入居時には水回りや設備のチェックを必ずしましょう。また、オーナーさんがどういう人かも重要です。特にオーナーさんが中国在住の中国人の方だと連絡がつかなくて困ることがあります。
香港での生活に関する様々な事を
お話くださいました
設備面についても触れておきます。香港の排水溝は、日本より細くなっています。キッチンでは、生ごみなどが詰まりやすいので、ごみは流さないように注意しましょう。また、しばらく人が住んでいなかった物件は、水回りの臭いが気になることがあります。その場合は、排水溝に水をたくさん流してください。2Lくらいの水にキッチンハイターのような漂白剤を入れて流すと臭いがとれます。
洗濯機の水漏れも多いですね。下の方の中側に排水溝のバルブがありますので、外すと髪の毛や糸くずが溜まっています。これを定期的に取りましょう。ごみを取らずに水漏れした場合は、入居者負担になりますのでご注意ください。
エアコンも水漏れが多いです。フィルター掃除を月に1回程度やらないと水漏れなどの原因になります。
スターツグループについて最後に、私が勤めているスターツグループについてご紹介します。スターツグループは、今年で50周年、社員数は8,000名、売上は1,800億、利益は200億円規模の会社です。建築と不動産をメインとしていますが、ほかにも生活関連などグループ会社は79社ございます。出版会社では、オズマガジンやオズモールなどを運営しています。また、ピタットハウスは、北海道から沖縄まで633店舗で展開しています。ほかにも、高齢者施設やホテルの運営などもしています。
現在23ヶ国37拠点で展開し、海外拠点では進出される日系企業さまのお手伝いをメインにさせていただいていますので、不動産関係でご相談などございましたら是非お声がけいただければと思います。
終始、和やかな雰囲気でした
夜の講演会・交流会
【1時間で分かる香港のビザの種類とイミグレの審査基準】
私は以前シティバンクで働いていましたが、転職後は東京と香港でレストランの立ち上げや管理をしました。レストランを管理していると、経理業務、ビザ、人事労務の問題などに詳しくなるため、今はその経験を生かして香港進出のお手伝いやJETROのコーディネーター、飲食店の役員、熊本県のビジネスアドバイザーなどをしています。今日は香港のビザの種類と手続きを中心にお話ししますが、香港は不法就労に対して非常に厳格ですので、その事例についてもご紹介したいと思います。
ビザの種類日本人が関係するものを中心にビザの種類についてお話ししますが、働く方が取得している最も一般的なビザは就労ビザとなります。香港の就労ビザは、香港政府の一般就労政策(GEP)に準じて発行されます。他にも中国人向けの就労ビザがあります。以前は、香港に一定の金額を投資すればビザが取得できるという投資移民ビザもありましたが、中国人からの申請が多く不動産バブルを招いてしまったこともあり、今は取り止めとなっています。
他の就労目的のビザとしては、科学技術人材向けのビザ、投資ビザ、研修ビザがあります。それ以外の日本人に馴染みのあるビザとして、家族ビザ、ワーキングホリデー、学生ビザ、訪問ビザなどがあります。
最近は、香港のビザの審査が厳しくなったと皆さんがおっしゃいます。しかしイミグレーションが出している2014~2017年の統計を見ますと、一般就労政策のビザの承認率は、2014年以降いずれも90パーセントを超えており変わっていません。中国人向けの就労ビザも、2014年以降85パーセント前後で推移しておりこちらも変わっていません。
当社では、ビザを年間50件ぐらい申請しますので、4年間で200件ぐらいになります。その間に審査で落ちたのは3件、そのうち2件はクライアントの依頼により審査基準を満たしていなかったにもかかわらず申請したケースだったため、実質的には1件となります。そのため、審査基準を満たしていれば基本的に審査は通ると当社では考えており、結論としては、総じてビザが難しくなっているわけではありません。
なお、香港のビザの審査には時間がかかります。イミグレーションの審査には4~6週間ほどかかりますが、もし資料が不足していて追加質問が入った場合は、追加審査のためさらに4週間ほどかかるため2ヶ月以上要するケースは多々あります。そのため当社のようなビザ業者が申請をサポートする場合は、追加資料を極力発生しないように十分な資料を整え、できるだけ短期間で取得できるようにサポートしています。
HK BUSINESS SOLUTION LIMITED
鴫谷賢二さん
では、それぞれのビザの審査基準についてお話しします。まず就労ビザについてです。これは先ほどお話ししたように、一般就労政策に準じて発行されますが、その政策基準として就労ビザの対象者は『香港人では代替することが困難な、特別なスキル・知識や経験を持つ者』、すなわち一般職ではなく専門職や管理職の方を招致するためのビザとなっていることがポイントとなります。いわゆる一般的な就労をするためのビザとは考え方が違うので注意が必要です。
実際の審査基準の詳細については、私たちの経験に基づいてお話しします。まず申請者についてです。学歴については、基本的に大卒以上が望ましいですが、中卒の方のビザも取ったことがあります。ただし、学歴が不足する分を業務上の資格・専門的技能・関連分野での経験や業績などで証明し補う必要があります。当社の経験としては、中卒の方はかなり難しいですが、高卒の方は資格や経験などを資料等で証明できれば、就労ビザを取得できる可能性は高いです。職歴については、少なくとも数年以上の職務経験があったほうが良いので、25歳以上でないと厳しいかと思います。職位については、管理職・専門職が望ましく、シェフや美容師などの現場職は、香港人でも代替が効かないことの説明が難しいため、現場を管理する役職であったほうが好ましいでしょう。給与は、専門的な職務であることを証明するため福利厚生を含め月額30,000ドル以上が望ましいとされています。
雇用主に対する審査もあります。会社規模・財務状況・事業内容・事業計画などを提出し、一定条件を満たす必要があります。会社に十分な資金があることも審査されますので、新設法人の場合は、仮に1年間の売上がなくても事業を保てるぐらいの資金(約50万香港ドル以上)があることが望ましいです。もちろん、香港人を雇用しオフィスがあることも重要となっており、自宅兼オフィスは認めれないことが一般的です。また、香港人では替えが効かない役職(職務)であることも重要です。
就労ビザの申請書はイミグレーションのサイトからダウンロードできます。大企業の転勤者は申請書に必要情報を記入し、必要な資料を添付すれば、審査に通るケースが多いです。しかし中小企業の場合は、そのようにスムーズにはいかないことがほとんどです。雇用主の事業内容の説明、事業計画、人員計画、組織図、役職や職務などに加え、申請者の専門家としての資格や経歴などをもとに、香港人では替えがきかないことを説明しなければなりません。
次に投資ビザ、(起業家ビザ)について説明をします。申請者が就労するために自身の事業を営む場合には、就労ビザではなく投資ビザを取る必要があります。すなわち、就労する会社の株式の過半数を持っていると、投資ビザの対象になるという解釈で良いかと思います。基本的な審査内容は就労ビザと同じですが、投資ビザのほうがかなり細かく事業の実態の説明を求められます。そのため、投資ビザ申請は自身で行わず、ビザ代行業者にお任せすることをお勧めいたします。
スタートアップ企業で投資ビザを取得した場合は、初回のビザ承認期間が1年(就労ビザの場合は2年)と短くなったり、イミグレーションが事業計画通りに進んでいるかどうかを更新時にレビューを行うことがあります。そのため、すでに事業実体のある企業は問題ありませんが、実体が乏しくビザ申請書内で将来の事業計画を記載する場合は、風呂敷を広げ過ぎないように注意しましょう。また、可能であれば就労ビザでの申請を模索することをお勧めしています。ビザの種類を変更するテクニックは、ビザ代行業者が持っていることもあるため、申請前に相談した方がいいでしょう。
香港ビザに関するエキスパート
ここからは短期就労や不法就労について、事例とともにご紹介します。2017年末に香港にある日系デパートの物産展で出店していた日本人が不法就労で逮捕されました。通常、デパートで物産展を行う方は他の国でもビザを取っていることは稀であり、グレイな部分はありますが、不法就労という認識の方は少なかったと思います。しかし、実際にはイミグレーションにより不法就労で逮捕されてしまい、2日後には裁判が開かれそのまま1ヶ月間投獄される結果となりました。他にも日本人路上シンガーが2ヶ月間投獄されたり、飲食店の立ち上げで日本から応援に来たスタッフ、短期指導ために来港していた著名な空手家も不法就労の疑いで捕まっています。
物産展での不法就労事件を受けて、領事館とイミグレーションが協議を行い、2018年には共同で説明会も行われました。この説明会の詳細は、領事館のホームページ上に『短期的な活動のために来港する際の香港就労査証の要否・手続等についての説明会概要』が掲載されています。例えば物産展のビザのガイドラインとしては、「物産展では、試食の調理や提供、法被の着用、商品の連呼については、就労ビザを要しない可能性がある」と記載されています。曖昧な表現となっておりますが、物産展の頻度や期間の長さなどがそれぞれ異なるため一概に判断できない、ということとなのかと思います。また、商行為(商品やサービスの提供、金銭の授受)はNGというが、イミグレーションの見解なのかと思います。
他の商業活動についても詳しく説明されています。例えば『バスケット選手が自分の体験談を講演するのは仕事ではない』、だが『バスケット選手が子どもたちに教えるのは、その人の技能を持って教えているのだから仕事である』とみなされます。他にもパフォーマーの事例もあります。ダンス、日本伝統舞踊等のパフォーマーは、その方々の技能をもとに披露しているので、例え無償であっても就労ビザは必要、というのがイミグレーションの見解です。
なお、短期的な商業活動のためのビザというものは無く、あくまでも就労ビザを基本として取得することとなります。あまり知られていないのですが、就労ビザは「期間、入国回数、1回の滞在日数」を定めることができます。例えば、「期間6ヶ月間、3回までの入国で、1回の滞在日数は10日まで」というような就労ビザです。そのような短期的な就労ビザは、一般的な就労ビザの審査よりやや緩くなることが通例です。
また、企業が短期的な就労を目的として研修ビザを取得する場合もありますが、就労ビザに比べ審査が緩いということはなく、期限後に就労ビザへの切り替えが難しい場合が多々あるため、本当の研修以外には利用しない方がいいでしょう。研修ビザの実態が就労に近く、香港人の雇用を奪っていると判断される場合もあるため、就労ビザで申請をした方が良いケースもあります。
その他にも、若い方が就労ビザを取得できないため、ワーキングホリデーを取得する方いらっしゃいます。ワーキングホリデーは、人数枠が空いていて、条件を満たす日本人であれば誰でも取れます。6ヶ月間以上同じ雇用主の下でしか働くことはできませんが、複数の会社を管理している雇用主も多いため、関連企業内でやり繰りしている場合もあるようです。ワーキングホリデーで滞在している方のなかで一番多い相談が、ワーキングホリデービザ期限後に就労ビザへ変更したいというものです。ワーキングホリデー中の就労は、滞在中の余暇のために認められているバイト程度のものなので、就労ビザ審査対象となる経歴にはあまりプラスにならないことがほとんです。また、職歴が短く若い方も多いため、就労ビザへ変更することは非常に難しいことを知っておいた方が良いかと思います。
なお不法就労は、通報による立入調査、もしくは入国時に止められて発覚することが多いようです。通報は、競合店や会社に不満のある同僚からイミグレーションへ連絡が入ることが多いのです。そのため、やむを得ずビザを取得する前に働かなければいけないようでしたら、ビザのことを他言をしない方が良いでしょう。実際の取り調べや裁判が進む過程で就労と認められる要素としては、「給与の支払、香港法人の名刺、専用のデスクや電話回線、タイムカード、制服の着用、仕事道具の所持、サービスの提供」などにより総合的に判断されることが一般的です。
香港は、日本に比べて不法行為に対しての処罰が非常に厳しい国です。正しいビザの知識を持っていれば防げることなので、皆様気をつけてください。ご清聴どうもありがとうございました。
参考になるお話ありがとうございました