2019年2月22日(金)
昼の座談会
【香港における住宅事情とそれに伴う引っ越しトラブルについて】
私が所属している香港日本通運は、日本の物流会社である日本通運株式会社の、世界で3番目の現地法人として、1979年に創立いたしました。今年でちょうど40年の節目にあたります。香港ならびに華南地区で、物流全般につきましてサポートさせて頂いております。
私は1996年からこの仕事をしておりますが、海外引っ越し一筋で、個人の方はもちろん、一般企業にお勤めの方や各国駐在大使の方、芸能関係の方に至るまで 幅広く扱わせていただきました。
本日は、『香港における住宅事情とそれに伴う引っ越しトラブル』というテーマで、物流業界の知識や情報を、『香港でのお引っ越し3つのあるある』というかたちでお話をさせていただきます。
まず1つ目は、日本では想像できない急な退去についてお話をさせていただきます。日本から着任されたばかりの方は、帰国するまで同じところに住もうと、思われている方が多いでしょうが、香港では、オーナー様のご都合などで、急に退去を求められることがあります。不動産価格が急騰している昨今、オーナー様が不動産を売却してしまい、「売れたから出て行ってくれ!」ということも珍しくはありません。あらかじめ知っておかれたほうが良いと思います。
それに関連して、引っ越し難民についてお話をさせていただきます。日本でも話題になっておりますが、大手引越業者さんが今年は国内引っ越しをやらないということで、特に拍車がかかっていると聞いております。引っ越し難民がなぜ起きるかということは、ドライバーの不足によるものと、テレビなどでは言われておりますが、実はあまり影響していないのです。何が影響しているかというと、働き方改革による政府からの指導に拠るものが大きいです。
それによってやり玉に挙げられたのが、われわれのような運送業です。ご存知のとおり、引っ越しは3月に集中します。稼ぎ時なので商戦期と呼んでおりますが、3月はいかに1件でも多く、仕事をさせていただくかが大事で、この時期は、残業が100~150時間になることも実際あり、その代わり、2月や4月に休暇を取って調整をしていました。
しかし政府から残業が規制され、それ以上仕事ができなくなりました。例えば、今まで3月に100件お請けしていたのが、60件しかお請けできなくなって、残りの40件はお断りするしかなくなりました。労働監督庁が抜き打ちで検査に来ますが、もし三六協定に違反している者がいれば、ブラック企業の烙印を押されてしまうのです。そして改善されないと、一定期間の営業停止や、国の入札に参加できなくなるなどの罰則が科される可能性もございます。
香港日通有限公司 引越支店支店長
土屋慶祐さん
2つ目は、急な退去に伴う引っ越し難民についてお話をさせていただきます。香港で引っ越し難民という問題が、なぜ起こるかというと、日本人の方は、言葉の問題もありますので、日系の引っ越し業者を選ばれることがほとんどです。香港の日系の引っ越し業者は、広告・宣伝等で日系社会に知れ渡っている会社で当社を含め4~5社ございましたが、昨年中頃 内大手2社さんが香港事務所をクローズされました。そのため現在 引越需要が現存する数社に集中してしまっている状況です。
それに伴って、今までは2~3週間前にご連絡をいただければ、対応させていただけましたが、今は1ヶ月前にご連絡をいただいても、もう予約が取れない状況になっております。上記状況を聞きつけたお客様の中には昨年のうちに、すでに3月のご予約をいただいております。まだ正式な辞令が出ていない段階で引っ越し日を先に抑えられる方も中にはいらっしゃるようです。
また、日本では日曜日も引っ越しができますが、香港では日曜日はお休みです。香港人は、日曜日は家族と過ごすということを大切にしていて、サラリーが1.5倍でも休みたいという方が多いので、うちもカレンダーどおりに月曜日から金曜日と、土曜日は午前中だけ営業をしております。対応させていただく日数が少なくなりますので、それも予約が取れないことに影響しております。特に土曜日は人気が集中して、それこそ旅行シーズンのホテルや飛行機のチケットと、同じような現象が起きております。
どうしても日系の引っ越し業者が見つからないと、香港の業者にお願いすることになると思いますが、広東語ができない日本人の方が少なくないため、料金に関するトラブルや、運び入れのトラブルなども少なくないと、お客様より聞いております。
指示した荷物が移動されない、指定した所に置いてくれないなど、極端な例では、リビングルームに荷物を山積みにして、そのまま帰ってしまったということもありました。空気清浄機が壊れていたときは、電話で伝えたようですが、なしのつぶてで泣き寝入りするしかなかったそうです。夏に上半身裸で作業をして、ソファーなどに汗が付いて汚れてしまったり、お客さんの目の届かないところで、足で荷物を押していたりと、挙げるときりがありません。もちろん日系以外のすべての引っ越し業者でこのようなトラブルが発生するということではありませんが、注意が必要です。
住居スペースに関するトラブル3つ目は、住居スペースに関するトラブルについて、引っ越し業者から見た実例を交えて、お話をさせていただきます。急な退去要請を受けて、慌てて次の住居を探した結果、間取りの見誤りによって、お困りのお客さんを、数々目の当たりにしてきました。
一番多いのが、家具が無く、がらんとした状態だと、部屋が広く感じられますので、これぐらい広ければ大丈夫だろうと契約をして、いざ引っ越しをしてみたら、足の踏み場もない状態になってしまったということです。荷物を運び入れさせていただくのですが、奥さんが呆然と立ち尽くしているのを、何度か見ております。急な引っ越しを迫られた場合でも、落ち着いてお部屋をお選びいただくことが、大切だと思います。
最後にもう一つ、よく目に付くトラブルをご紹介させていただきます。日本でも有名な、某大手欧州系の人気の家具屋さんがございます。業界の中では有名なのですが、分解・組み立てに向いていないモデルも中にはございます。組み立てたら、そのまま使うことを前提に作られているタイプも中にはございます。ワードロープなどもそうですが、薄くデリケートなベニヤ板を、釘打ちで取り付けていることも少なくないため、分解すると割れてしまうことがあります。そちらの家具の分解組み立ては別料金と、見積もりに入れている業者もあるぐらいです。
よくご依頼いただきますが、引き出しや扉の建て付けが悪くなってしまうことも、どうしても起こりますので、もし、そういうおしゃれな家具を購入される場合は、そういった状況も想定の上で購入していただくよう、お話をさせていただいております。
うちでは日本語ダイヤル、日本語専用メールをご用意しております。こちらは100%日本語で対応させていただいております。お引っ越しをご検討の際は、ぜひともお声掛けいただければ幸いです。
プロの意見は参考になります
座談会の様子
夜の講演会・交流会
【日本と香港のデジタルマーケティング環境の違い】
今日のテーマは、『日本と香港のデジタルマーケティング環境の違い』ということで、まず世界の市場観についてお話ししてから、日本と香港の市場観についてお話ししたいと思います。そこから香港でマーケティングしていく方法についてご紹介したいと思います。
私はAdAsia(アドアジア)という会社に勤めています。AnyMind Group(エニーマインドグループ)という企業グループです。AnyMind Groupは、2016年にシンガポールで日本人が起業した、3年目のスタートアップです。今では資金調達額が約40億円、従業員数も600名近くなっています。急成長しているベンチャー企業で、私は東京で5年ほど働いてから、1年半前に転職しました。
東京では、マーケティング効果を測定するツールの、製品企画責任者をしていました。ツールの日本でのシェアは49%で、いろいろなデータの裏側を見てきましたので、効果のあるやり方や、媒体について熟知しています。ボタニストというシャンプーをご存知ですか? うちで頑張ってマーケティングしていますので、もし店舗でご覧になりましたら、お手に取っていただけるとうれしいです(笑)
世界のマーケティング環境グローバルのデジタル広告費の推移を見ることは、世界のマーケティング環境を考える上で重要です。広告費の推移を見ると、デジタルが急速に上がってきているのが分かります。2021年には全広告の半分が、デジタルになると言われています。
広告のテクノロジーのことを、アドテクノロジーといいますが、アドテクノロジーの起源として大きい事件があります。リーマンショックです。以降、広告の技術が急速に進展しました。例えば、証券のトランザクションは、瞬時に膨大な売買を処理していますが、アドの世界でもYahoo広告の仕組みなどで見られます。データとマーケティングは切り離せなくなっており、マーケティングの業界では、自社のデータが多ければ多いほど、長期的に企業価値を上げやすいと言われています。
日本のデジタルマーケティング環境マーケティングを考える上で、誰がこの商品を欲するかが一番重要です。少子高齢化で人口が減っていくことが、日本で一番大きく起きています。企業が成長し続けるためには、買ってもらう数や回数を増やさなければなりません。昔は良いモノを出せば、買ってもらえましたが、今はモノがあふれています。
Yahooオークションにより、モノを流通させることがビジネスになりました。メルカリの台頭で、さらに拍車がかかりました。新しいモノが作りづらいので、同じモノでもわくわくするなどの、体験価値が重要になってきています。これが東南アジアだと全く違い、分かりやすいブランドが人気です。日本ではブランドではなく、自分なりのスタイルでいいという人が増えています。
マーケティングオートメーションが進んでいます。例えば、就職のエントリーをすると、ありがとうのメッセージや企業の紹介、面談日の登録、面談後のフォローなど、求職者が求めるタイミングや、気持ちが変わるポイントで、フォローのメッセージを送ります。それを自動化するというのが考え方です。
上場企業の83%以上が、データを蓄積して意思決定する時代になっています。企業にもよりますが、たくさんのデータを持っています。大企業はそのデータの活用を考え、一方で、まだ誰も目を付けていない市場で、自分たちだけが知っている事実を、データを活用してかたちにするというのが、ベンチャー企業の考え方です。
人口が2050年には、1億人を切るというデータがあります。年代別の構成比でビジネスを見ると、高齢者向けの介護や医療ビジネスは、着実に伸びていきます。一方で、若年人口や生産年齢人口は減っていきますので、ここを対象にしているサービスは大きな打撃を受けます。
広告については、以前はテレビCMに100万円を使い、売上が200万円上がれば儲かりましたが、今は複数のメディアを使いますので、どのメディアで売上が上がったのか、分からなくなっています。複数のメディアを組み合わせて、最大の成果を生むことを考えるのが、今の日本のステージです。
講師の足立愛樹さん
香港の人口は埼玉県と同じくらいで、面積は日本で一番小さい香川県より小さく密度が高いです。ビルは高層で、1階にはショッピングセンターがあり、購買意欲が旺盛です。スマホの所有率は99.5%と非常に高く、インターネットの利用率も88.2%で、10人中9人近くが日常的にアクセスしていることになります。いずれも日本を上回っています。ただしこのデータは、国の統計資料が見つけられなかったため、民間の調査資料を基にお伝えしています。
香港でも広告費は、デジタルに集まっています。内訳はペイドサーチという、検索結果の上に表示される広告と、ディスプレイ広告が中心となって牽引しています。ディスプレイ広告は、もちろんGoogleもありますが、香港の場合はFacebookがメインです。
ユーザー側の視点で、インターネットで何をしているのかを見ると、1位は連絡・SNSで、FacebookやWhatsAppです。2位は情報収集・検索で、Googleが中心です。3位はコンテンツ消費で、YouTubeなどです。マンガアプリも伸びています。デジタルコンテンツの消費が非常に伸びていますが、ショッピングはあまり伸びていません。香港ではECは難しいと言われています。
香港でいかにインターネットを活用して事業を伸ばしていくか?一番伸びているGoogle検索は、おさえておいたほうがいいと思います。広告として出稿しても良いですが、SEOという、ホームページが検索結果に、出てきやすくする方法もあります。日本ではYahooもありますが、YahooとGoogleが並ぶのは日本ぐらいです。
香港で重要なのは、SNSを制すということです。FacebookやInstagramは、弊社のお客様でも実際に店舗の売上に跳ね返ってきています。日本ではFacebookの登録率は20%くらいですが、香港では75%です。アクティブユーザー数で見ると、Facebookは人口の半分がアクティブに動いています。10代から35歳までの人口は、350万人くらいですが、Instagramは、その3分の2がアクティブに動いています。
人口730万人の香港に対して、年間旅行者数は5,000万人くらいになっています。そのうちの76%は中国大陸からの旅行者で、この3年で売上が20倍に伸びています。中国には独自のメディアがありますが、グローバルメディアと同じスキームでアプローチできれば、大きな効果が期待できます。
最後にインフルエンサーマーケティングの話で終わりたいと思います。インフルエンサーというのは、影響力を持っている人という意味です。少し前は芸能人を使ったマーケティングでしたが、今はユーチューバーやインスタグラマーなど、顧客により近くなり、おすすめする力が強くなっています。
インフルエンサーさんは無数にいらっしゃいます。選定の際は、フォロワー数を一つの基準にしますが、今はフォロワーを買うことができますので、その中身が重要になっています。弊社ではAIを導入して、定量的に候補者を選定しています。
そもそも広告というのは、うっとうしいものです。最近では広告費を払って、嫌いになるお客さんを増やすということも起きています。広告を最適化するのが、データの役割ですが、インフルエンサーは、広告ではできないコミュニケーションを取ることができます。企業から発信される広告よりも、好きなインフルエンサーさんに、実際に使った感想を言ってもらうほうが、信頼性が高くなっています。
広告とインフルエンサーの違い、国や媒体の違いなどを考えていくと、マーケティングの構造が理解しやすいと思います。
講演会の様子
グローバルな視点でお話して下さいました